河川環境に配慮した治水対策
治水対策の中でも特に構造物対策は、河川環境に与える影響が大きい。20世紀に進められてきた治水対策は河川構造物の建設を主体としており、河川形状の画一化・無生物的な護岸の盛行などによって、河川における生態系の喪失・劣化が生じた。1960年代後期の西ドイツ・スイスなどで、生態系の維持に配慮した河川づくりの運動が興り、1970年代には、実際に西ドイツ・スイス・オーストリアでいわゆる近自然的な河川づくりが実施され始めた。ヨーロッパの自然条件の下では近自然的河川づくりと治水対策とを整合的に実施することが可能であり、かつての氾濫原で後に農地や住宅地として開発された地域を再び氾濫原に戻す事業が多く行われた。
こうした河川思想はアメリカやアジア各国へも波及し、例えば日本では、近自然的河川づくりを日本的に咀嚼した多自然型河川づくりが河川事業の中心に置かれるようになり、その他、中国では長江流域単位で河川の自然再生事業が行われたり、韓国では都市高速道路と河川の蓋を撤去して河川生態系の再生を図るソウルの清渓川事業などの取り組みが行われている。
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生態系の再生・維持
コンクリート張りの堤防護岸や河床は治水対策の上で大きな効果を示すが、河川が本来有していた生態系を喪失・劣化させる。そのため、先進国を中心として、自然に近い形で河川整備を行う考えが主流となっている。この工法は、近自然河川工法または多自然河川工法と呼ばれている。
これは単に自然環境が存在すればよい、という考えに与しない。例えば、ダムの建設等により下流域の流量が減少し、河川流の細流路化に伴って流路が固定化されると、河川敷の植生が繁茂する問題が生じる。植生の繁茂は一見、自然環境の再生であり望ましいことのように思われがちであるが、河川敷において植生が繁茂すると、洪水流の流下能力を低下させ、破堤の危険が増すこととなる。本来の河川の姿(礫河原であれば礫河原)を維持することが、治水面でも河川環境面でも非常に重要である。